VATガイドブック

VAT Guidebook

デジタル化・グローバル化で考えなければならない国際間接税問題

Elegant hand holding DIGITAL inscription, digital technology concept

昨今、グローバル市場での利益創出を狙い、様々な企業が海外企業とビジネスを行っており、その数は年々増加傾向にあります。加えてデジタルトランスフォーメーション(DX)といった既存ビジネスをデジタル化と共に再定義することによって、今まで以上により効率的にグローバル展開を行う企業が増加しています。

このようなデジタル化によって、今までのように現地法人を設立するような海外進出と異なり、現地に現地法人を設立しない場合でもビジネスを容易に行うことが可能となりました。このように海外のマーケットに直接物品やデジタルグッズを販売する場合、今までは気にしていた移転価格の問題等も気にすることも無くなりました。反面、付加価値税を始めとする国際間接税の課税範囲に入ってしまっている例が多くあり、非居住企業によるこれらのコンプライアンス違反が度々行われており、各国の税務当局は例え非居住企業であろうとも追徴課税を課したり、財産の押収を含めた厳しい措置を取る場合も多く発生しています。

このようなグローバル・ビジネスの開始時期には、FS(フィージビリティ・スタディ:事前調査)によりマーケティング面や営業面、物流面、生産面等、様々な側面を事前調査されます。しかしこの点、国際間接税については、各国の税務当局が情報を積極的に提供しているにも関わらず、十分に検討されずにビジネスを開始されている会社が多くないように感じられます。例えば、欧州の消費税である欧州付加価値税(Value Added Tax :略称 VAT)についても、当社のクライアントは多くが大手企業ですが、これらの企業でもどのような行為が課税活動なのか、またどのように税申告をして、どのようにタックスプランニングをしていくべきかを悩まれている企業が多い印象があります。

この理由の一つとして、欧州付加価値税法をはじめとして国際間接税に精通した専門家が少ないため、企業の税務部といえども、これら国際間接税に関するコンプライアンスやタックスプランニングについてきちんとした知識がないということが挙げられます。

また、「VAT還付」や「VAT登録」制度については多少知識のある企業でも、これらの制度利用の良し悪しや、関税や移転価格を含めたグローバルなサプライチェーン管理を気にしていない企業もあるように見受けられます。欧州付加価値税はじめ米国売上税などの国際的な間接税は、現地の課税要件を満たした場合、たとえ日本企業のような外国企業であっても現地の関連法規に従う必要があり、その上でビジネス上の効率だけでなく、税務上の効率も求めていかなければなりません。

昨今、欧州税務当局はEU域外の企業による欧州での課税活動に関して厳しく取り締まるようになってきています。背景として、欧州付加価値税はインボイスなどの「形式」を重視する税であるので税の未納付やコンプライアンス違反を容易に発見されることが多いこと、各国の税収割合(直間比率)が世界的に「直接税」から「間接税」へシフトしており、特に欧州では付加価値税が基幹税収であるため税務調査が頻繁に入ることの他、GAFAと呼ばれるGoogle, Apple, Facebook, Amazon等の大手IT系クラウド企業による経済活動や、同様のサービスではITを駆使しているため簡単に消費地である欧州で販売を上げている割に税を巧みに逃れるスキームを利用されており、外国企業の課税活動にも着目されるようになったことがその理由として挙げられます。

このような傾向を受け、過去の自社の取引について欧州税務当局から突然課税漏れの指摘を受け、税申告の要求を受けている日本企業が多くなってきています。当社においても、各国の税務当局との交渉を依頼される企業やその対応策に追われるケースが最近特に多くなってきています。

そこでこの『欧州付加価値税ガイドブック』では、日本企業が通常盲点となりがちな欧州付加価値税の仕組みや事例を説明し、貴社の欧州ビジネスの際の事前検討に役立てて頂ければと考えております。本稿では欧州付加価値税を中心として説明されていますが、消費税(付加価値税/VAT)は欧州発祥の税であり、時代に即した変化をしてきており、最近もプラットフォーマー向けの税制改正などがあり、税が頻繁にビジネスの実態に合わせようとしてきています。このため、欧州付加価値税制度は同様の消費税や付加価値税制度の中でも現在世界で最も進んでいると思われます。よって、欧州以外の国においても今後似たような動きになると考えられるかと存じます。

当ガイドブックにより、皆様の欧州付加価値税に対する理解が深まり、取引開始時の法令順守に少しでも寄与することによって貴社のサステナブルな欧州ビジネスの御発展に貢献できれば幸いです。

オプティ株式会社
代表取締役 淵上 暁

 

対象となる企業

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越境ECで売上拡大を目指す個人や企業

個人の副業や本業で、日本国内や中国等から物を仕入れて、海外のマーケットプレイス上で販売する事例が多くあります。この場合、現地の税申告について知る必要があります。

 

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デジタル化で売上拡大を目指す企業

アプリやデータベース等、デジタル製品を世界の企業や個人に販売している場合、現地の税申告が必要です。

また、プラットフォーマー向けの税もあり、自社のサービス展開時に事前に課税方法を確認する必要があります。

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欧州で物品やサービスを売買する企業

欧州域内で物品を購入したり販売したり、また機械を据え付けたりしている場合は、現地の税リスクがございます。

税登録をする場合でも、国を間違えられないので正確に判断を行う必要があります。

コスト削減HP 税 86

税コストの最適化を目指す企業

旅行経費や海外サプライヤーからのインボイスに課税されているVATの削減を目指す企業や、複数カ国での税登録を余儀なくされた場合の回避スキームを考えている企業もご参考頂けます。

欧州付加価値税の概要

Gavel resting on sound block with european union flag in background

EUに加盟している国は27カ国あり、加盟国それぞれに略称があります。そしてこれらの加盟国では共通の間接税精度である、付加価値税制度(VAT制度)を採用しています。税率やその他の詳細は加盟国毎で異なる項目はありますが、大筋の部分では同じ制度ということになります。

現在、欧州付加価値税の名称はValue Added Tax (略称VAT)のみならず、TVAIVA等、加盟国毎に略称があります。税率も15%から28%と加盟国毎に異なります。欧州付加価値税制度は、理事会指令2006/112と呼ばれるEU指令を中心として様々な項目が規定されています。
なお、理事会指令では、欧州連合加盟国を「加盟国」と定義し、欧州連合加盟国以外を「第三国」としています。このため、本稿において加盟国という記載方法を行っている場合は、欧州連合加盟国27カ国を指していることになりますのでご留意ください。

対象地域

欧州付加価値税の対象地域は、欧州連合27カ国です。(英国については、BREXITによりEUより離脱)この点、ノルウェーやスイスについても、ヨーロッパという括りでは考えられるものの、本稿では、特に決まりのない場合は欧州は欧州連合の意味で使用しています。

欧州連合加盟国は下記の通りです。カッコ内は略号。
オーストリア(AT)、ベルギー(BE)、ブルガリア(BG)、クロアチア(HR)、キプロス(CY)、チェコ(CZ)、デンマーク(DK)、エストニア(EE)、フィンランド(FI)、フランス(FR)、ドイツ(DE)、ギリシャ(EL)、ハンガリー(HU)、アイルランド(IE)、イタリア(IT)ラトビア(LV)、リトアニア(LT)、ルクセンブルグ(LU)、マルタ(MT)、オランダ(NL)、ポーランド(PL)、ポルトガル(PT)、ルーマニア(RO)、スロバキア(SK)、スロベニア(SI)、スペイン(ES)、スウェーデン(SE)です。

 

付加価値税税率

欧州付加価値税の税率はルクセンブルグの17%からハンガリーの27%と様々ですが、日本の消費税の料率と比べて高率となります。
下記に各加盟国毎のVAT料率(標準税率)を記します。

Jurisdiction

Rate (Standard)

Rate (Reduced)

Abbr.

Name

 Austria

20%

13% or 10%

MwSt.USt.

German: Mehrwertsteuer / Umsatzsteuer

 Belgium

21%[38]

12% or 6%

BTWTVAMWSt

DutchBelasting over de toegevoegde waarde; French: Taxe sur la Valeur Ajoutée; German: Mehrwertsteuer

 Bulgaria

20%

9%[39]

ДДС

Bulgarian: Данък върху добавената стойност (Danăk vărhu dobavenata stojnost)

·        Cyprus

·          Akrotiri and Dhekelia

19%[40]

9% or 5%[39]

ΦΠΑ

Greek: Φόρος Προστιθέμενης Αξίας (Fóros Prastithémenes Axías)

 Czech Republic

21%

15% or 10%

DPH

CzechDaň z přidané hodnoty

 Croatia

25%

13% or 5%

PDV

CroatianPorez na dodanu vrijednost

 Denmark

25%

none

moms

DanishMeromsætningsafgift

 Estonia

20%

9%

km

Estoniankäibemaks

 Finland

24%[41]

14% or 10%[42][43]

ALVMoms

FinnishArvonlisäveroSwedishMervärdesskatt

·        France[44]

·          Monaco

20%

10%, 5.5% or 2.1%

TVA

French: Taxe sur la valeur ajoutée

 Germany

19%

7%

MwSt.USt.

German: Mehrwertsteuer / Umsatzsteuer

 Greece

24%[45]

13% or 6%[46]

ΦΠΑ

Greek: Φόρος Προστιθέμενης Αξίας (Fóros Prostithémenis Axías)

 Hungary

27%

18% or 5%[39]

ÁFA

Hungarianáltalános forgalmi adó

 Ireland

23%[47]

13.5%, 9%, 4.8% or 0%

VAT; CBL

English: Value Added Tax; IrishCáin Bhreisluacha

 Italy

22%[48]

10%, 5%, or 4%[49]

IVA

ItalianImposta sul Valore Aggiunto

 Latvia

21%[50]

12% or 5%

PVN

LatvianPievienotās vērtības nodoklis

 Lithuania

21%

9% or 5%

PVM

LithuanianPridėtinės vertės mokestis

 Luxembourg

17% [1]

14%, 8%, or 3%

TVA

French: Taxe sur la Valeur Ajoutée

 Malta

18%

7%, 5% or 0%[39]

VAT

MalteseTaxxa fuq il-Valur Miżjud; English: Value Added Tax

 Netherlands

21%[51]

9% or 0%

BTW

DutchBelasting toegevoegde waarde / Omzetbelasting

 Poland

23%

8%, 5%[39]

PTU; VAT

PolishPodatek od towarów i usług

·        Portugal

·          Azores

·          Madeira

·       23%[52]

·       18%[52]

·       22%[52]

·       13% or 6%[52]

·       9% or 4%[53]

·       12% or 5%[52]

IVA

PortugueseImposto sobre o Valor Acrescentado

 Romania

19%

9% or 5%[39]

TVA

RomanianTaxa pe valoarea adăugată

 Slovakia

20%

10%

DPH

SlovakDaň z pridanej hodnoty

 Slovenia

22%

9.5%

DDV

SloveneDavek na dodano vrednost

 Spain

21%[54]

10% or 4%[54]

IVA

Spanish: Impuesto sobre el valor añadido

 Sweden

25%

12% or 6%

Moms

SwedishMervärdesskatt

 

 

前段階税額控除

欧州付加価値税の制度では前段階控除という制度が用いられています。日本の消費税同様、「仕入に掛かった税(仮払VAT)」と「売上の際に徴収した税(仮受VAT)」を相殺し、その結果、売上の際に徴収した税が多い場合、該当する加盟国の税務署に(付加価値)税を納付します。反対に、仕入に掛かった税(支払った税)が多い場合、該当する加盟国の税務署から還付します。

このように仕入に掛かった付加価値税、すなわち前段階の経済活動で発生した付加価値税を控除する制度を前段階税額控除制度といいます。

【事例】
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Q:ドイツ企業A社はドイツ国内で携帯電話販売ショップを開いている。携帯電話をドイツ国内で個人に対して税抜価格200Euro(税込価格238Euro)を販売した。このドイツ企業A社は携帯電話を同国内のB社から税抜価格150Euro(税込価格178.5Euro)を80台仕入れたものであった。ドイツでの付加価値税税率は19%である。この場合、ドイツ企業A社は税務署にいくらの付加価値税を支払うべきか。

A:
本件においては、A社が販売時に徴収した38Euroと仕入れ時に支払った28.5Euroは前段階税額控除により相殺できます。このため、当該ドイツ企業A社がドイツ税務当局に対して支払うべき付加価値税は9.5Euroとなります。

 

【事例】
Q:フランス企業A社は工作機械商社である。今般、フランス国内の機械製造業B社より12,000Euro(内訳:税抜10,000Euro, VAT2,000Euro)を購入した。その後A社は当該機械を日本企業C社に15,000Euroで輸出販売した。
この場合、フランス企業A社は仕入時に支払った12,000Euroのうち、VAT2,000Euroは控除できるか。

A:
本件においては、A社が仕入時に支払った2,000Euroは控除(還付)できます。このため、A社は税務申告上で仕入時の仮払VAT2,000Euroを申告すれば、販売時のVATが0であるため、当該VAT2,000Euroは還付することが可能となります。

 

納税義務者

納税義務者

欧州付加価値税の納税義務は資産の譲渡または役務の提供を行う事業者がその義務を負います。事業者は、営む場所、目的、結果を問わず、独立して経済活動を営むものを指し、ここで言う経済活動とは、鉱業、農業、専門的サービスを含む、生産、商品販売、サービス提供に含まれる全ての活動を指し、収入を得るために継続的に有形または無形資産を利用することを指します。

事業者は他の事業者や最終消費者から付加価値税(仮受VAT)を徴収し、また仕入経費やオフィス家具等で付加価値税(仮払VAT)を支払います。この仮受VATと仮払VATの差額を該当する加盟国に納税する義務があります。

納税のタイミングは加盟国によって異なりますが、一般的に、四半期ベース(毎四半期)または月次ベース(毎月)となります。

事業者(Taxable Person

事業者は、営む場所、目的、結果を問わず、独立して経済活動を営むものを指し、
ここで言う経済活動とは、鉱業、農業、専門的サービスを含む、製造、商品販売、サービス提供に含まれる全ての活動を指し、収入を得るために継続的に有形または無形資産を利用することを指します。

すなわち、製造業や商社、金融機関など多くの会社のみならず、経済活動を収入を得るために行う個人も該当します。また、欧州連合域外の法人や個人の他、パートナーシップやジョイントベンチャーでも、欧州連合域内で資産の譲渡や役務の提供を行う限り欧州付加価値税法上は全て事業者に該当します。

事業者にも、「課税取引」のみを行う会社と「非課税取引」のみを行う会社とに分類できます。「課税取引」の代表としては、製造業や商社等での物品の販売等の商行為が挙げられます。「非課税取引」の代表として、金融機関や福祉・保健関連、教育関連の企業や組織による物品販売や役務提供が挙げられます。

課税取引を行う事業者も、非課税を行う事業者も、どちらも事業者(Taxable person)です。なお、非課税取引を行う事業者であっても、一部は課税対象取引で、一部は非課税対象取引であることもあります。

【事例】

質問:
私は日本でEC事業者として開業したばかりの個人事業主です。現在、欧州のAmazonを利用して欧州地域の消費者に対してカメラを販売しています。現在、Amazon FBAサービスというサービスを利用しています。このFBAサービスというのは、自社の在庫(所有物)を欧州Amazonの指定する倉庫に在庫として保管しており、顧客からの受注が発生するとAmazonが当社の代わりに顧客に対して物品を配送するサービスです。
FBA倉庫地としては、ドイツとフランスにあり、当該倉庫地よりドイツ国内やフランス国内の消費者の他、各地の欧州連合内の消費者に対してもカメラを販売しています。私は現地でVAT番号を取得する必要がありますか。

回答:
本件において、質問者は個人ではありますが、個人事業主として収入を得るために定期的に物品販売を行っています。すなわち、この質問者は欧州付加価値税法上の事業者であると言えます。

欧州付加価値税法の事業者が、欧州連合域内で有償にて資産を販売することは課税対象取引となります。このため、質問者は現地にてVAT番号を取得する必要があります。尚、本ケースでは、最低限ドイツとフランスとでVAT番号を取得しなければなりません。

1. 小規模事業者の特別措置

特例として、欧州付加価値税には小規模事業者の特別措置(281条~292条)という特別制度があります。各加盟国では、売上が一定金額に満たない事業者を「小規模事業者」とみなし、これらの事業者による取引を課税対象外とすることが出来ます。ただしこの小規模事業者の特別措置制度は、EU在住企業に対してのみの適用となります。

つまり、EU域内で課税対象取引を行う日本企業は、たとえ売上の規模が小さくても小規模事業者の特別措置制度を利用することは出来ません。このため、もし日本企業がこれらの課税活動を行った場合、課税活動を行った地(課税地)において付加価値税登録及び付加価値税申告を行う必要があります。

【事例】

質問:
当社は日本でおもちゃ雑貨店を個人事業主として経営しております。日本国内での売上は年間1000万円未満であり、消費税の課税事業者ではありません。

今般、おもちゃを欧州Amazonにて販売したいと考えるようになり、スペインのFBA倉庫を利用する予定です。当社の今年の日本の実店舗の売上予想は800万円です。また欧州AmazonでFBAを利用したスキームの売上予想額は年間200万円です。欧州連合では小規模事業者の特例で売上が少ない時はVAT番号を準備しなくても良いと聞いたことがあります。当社ではこの特例を利用できますか。

回答:
本件において、質問者は個人ではありますが、個人事業主として収入を得るために定期的に物品販売を行っています。すなわち、この質問者は欧州付加価値税法上の事業者であると言えます。本来は、欧州連合内の事業者であれば、年間売上が各加盟国の小規模事業者に該当する金額内であれば、VAT登録を行わなくても問題がありません。

しかし本件では、貴社は非EUの事業者であるため、小規模事業者の特例を利用できる欧州連合内の事業者ではありません。よって貴社は売上が僅かな額発生する場合においても、該当加盟国においてVAT番号を取得しなければなりません。

 

リバースチャージ制度

 

EUでは、リバースチャージ制度という制度があります。通常、課税売上のある事業者は、顧客より付加価値税を課税・徴収し、これを税務署に納付しなければなりません。リバースチャージ制度は、本来は資産や役務の提供者である納税義務をシフトし、資産の取得者または役務の受益者に転嫁される制度を指します。

リバースチャージ制度はあくまでも納税義務の転嫁であるだけで、非課税取引というわけではなく課税取引となります。

リバースチャージ制度を利用する際には、リバースチャージが適用される旨、及びその根拠条文をインボイス上に記載する必要があります。

【事例】

質問:
当社は日本の弁護士法人です。クライアントは主に法人ですが、個人のもあります。また、これらの法人や個人の中に、1社だけフランスの法人があります。リバースチャージという制度があると伺いましたが、当社でも利用できますか。

回答:
本件において、欧州連合国外の企業がフランス法人(より正確には事業者)に対してサービス提供を行う場合には、リバースチャージの対象となり、納税義務が当該欧州連合加盟国内の法人にシフトされます。このため、貴社はインボイス上にてVAT金額を記入し課税する必要はなく、徴税・納税する必要もありません。ただし、リバースチャージを利用するためには、インボイス上に顧客企業の正当なVAT番号を記載の他、フランス国内での現地VAT法上の該当条文を記載する必要があります。またこれ以外にもフランス国内でのVATインボイスの要件を満たさなければならないため、注意が必要です。

 

 

課税対象外法人(Non-Taxable legal Person

 Medical student smiling at the camera at the university

研究機関や非営利法人、ボランティア団体等、事業者では無い法人は課税対象外法人に該当します。本来的に事業を営んでいない点で、金融機関や介護施設のように、非課税売上によって収入を得る法人とも異なります。

尚、例え研究機関や非営利団体、ボランティア団体であっても、欧州付加価値税法でいう課税対象取引を行う(行った)場合、欧州付加価値税法の事業者に該当します。このため、顧客より付加価値税を徴収し、税務当局に納税しなければなりません。

 

最終消費者(Non Taxable Person

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一般的な自然人のことで、事業により収入を得ようとする法人や個人と対比されます。最終消費者は、例え物品を購入したとしても、収入を得る目的で当該物品を購入していないため、物品購入時や役務購入時のVAT(仮払VAT)を控除したり還付することはできません。

その一方、たとえ個人であっても、事業により収入を得ようとする個人は最終消費者ではなく事業者と見なされます。このため、事業により収入を得ようとする個人は、物品購入時や役務購入時のVAT(仮払VAT)を控除したり還付することができます。

 

 

公共団体(Public Body

 

付加価値税上の公共団体の対応として、国や地方政府、公的な団体は事業者とみなされません。しかしながら、事業者と同様の経済活動を行い、事業者との競争に歪みを生じさせる場合には、たとえ公共団体であっても事業者とみなされます。

課税対象取引

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欧州付加価値税法の課税対象取引は、「資産の譲渡」、「役務の提供」、「域内取得」、「輸入」です。前述の通り、事業者がEU域内で事業として有償で行う資産の譲渡及び役務の提供、および域内取得と輸入がその対象となります。すなわち、無償の物品販売や役務提供は課税対象取引に該当しません。

これら課税対象取引が行われた場合には、VAT指令213号1項により、課税対象取引を実施する(した)事業者はVAT番号を取得し、その後定期的な税申告(付加価値税申告)を行わなければなりません。このため、これらの課税対象取引については絶えず留意する必要があります。

尚、課税対象取引は、これら経済活動を行う企業の所在地に依存しません。すなわち、これらの課税対象取引が行われる場合には、たとえ日本企業のような非居住企業であっても付加価値税登録及びその後の付加価値税申告が必要となります。

 

 

① 資産の譲渡

「資産の譲渡」とは、有形資産の処分権を移転することです。
「資産の譲渡」とは、欧州連合域内における資産の販売です。資産を欧州連合外に輸出することは輸出であり、資産の譲渡には該当しません。

【事例】
質問:本邦法人A(商社)は、今般、ドイツ法人Bに対してプラスチック成形機を販売することとなった。プラスチック成形機は日本から輸出することになった。尚、プラスチック成形機の材料となるプラスチック部材に関しては、別のドイツ法人Cより購入し、当該部材をC社からB社に対して直送して販売した。この場合、本邦法人AはドイツでのVAT番号を取得する必要があるか。

解説:本件においては、A社はドイツ企業C社からプラスチック部材を購入し、ドイツ企業B社に対して販売しました。すなわち、ドイツ国内において、資産の処分権をC社より取得した後にB社へ販売したことになります。この場合、本邦法人A社はドイツにて資産の譲渡が行ったこととなり、A社は日本企業であってもドイツにてVAT番号を取得する必要があります。加えて、AB間のインボイス上では、ドイツのVATを請求する必要があります。尚、A社は定期的にVAT申告を行う必要があります。

ドイツの付加価値税申告の場合、通常、月次申告となります。

 

② 役務の提供

 「役務の提供」とは、資産の譲渡以外のものを指します。役務の提供とはサービスの提供とも言えます。これには、無形資産の譲渡や貸付も含みます。例として、機械設備の修理や設置、散髪、芸能人の興行、コンサルティングの他、オペレーティングリースも該当します。

 

③ 域内取得

 「域内取得」とは、有形動産の処分権の獲得であり、当該資産がある加盟国(加盟国A)から他の加盟国(加盟国B)に移動を伴う取引を指します。供給者または取得者、あるいはこれらのものから委任を受けたものによる輸送によって、資産が取得者に輸送される場合に域内取得であると認められます。
尚、域内取得の「域内」とは、EU27カ国という意味です。欧州付加価値税法では、EU27カ国のことをthe Community(域内)、それ以外の国のことをthird territories(第三国)と呼びます。域内取得とは、加盟国間の物品の移動を指します。例として、英国の会社Aが他のEU加盟国であるドイツの会社Bより機械を購入する場合がこれに当たります。尚、域内取得と異なる概念として「輸入」があります。輸入は、加盟国以外の第三国から資産をEU域内に持ち込むことを指します。

域内取得はEU域内納品とセットになっています。上記の例では英国の会社A社がドイツの会社B社から物品を購入することは「域内取得」です。逆に、ドイツ法人B社から見ると、サプライヤーであるB社から顧客A社への販売は「EU域内納品」となります。これら域内取得とEU域内納品は、1つの取引について、別の立場から見ているため異なる言葉となります。尚、域内取得とEU域内納品は、域内取引という言葉で言い換えることも可能です。すなわち、域内取引のうち、購入側の取引が域内取得であり、販売側の取引が域内取得となります。

EU域内納品は輸出同様、免税取引となります。域内取得は取得側(この場合英国の会社A社)、すなわち仕向地(この場合英国)の税率にて域内取得の税額を計算し申告し、申告書にて同額を前段階税額控除します。

なお、ある加盟国にある自社所有の有形資産を別の加盟国に移動することは、自社所有物の移動ではありますが、みなし域内取得が発生したこととなります。みなし域内取得の場合は、あたかも自社間で物品を取引したかのような対応となり、発送国及び着荷国の両方の加盟国でVAT番号を取得する必要があります。

 

④ 輸入

 「輸入」とは、第三国(EU域外)から資産をEU域内に物理的に持ち込むことです。輸入者が事業者であるか、課税対象外法人であるか、最終消費者であるかは問われず、また売買によるものである必要性もありません。輸入時のインコタームズによって、その対応方法が異なりますので注意が必要です。

【事例】日本からEU域内への輸出
質問:当社は日本のみならず世界各地で自動車部品を製造している日本法人です。今般、当社顧客である自動車メーカーのスペイン現地工場の要請により、スペイン工場に対してDDP条件で自動車部品を輸出してほしいと言われました。また可能であれば、スペイン国内に在庫をおいて注文を受け次第、カンバン方式で納入して欲しいと言われました。

当社でも現在フランスに工場(現地法人)があるのですが、本取引においては、フランス現法を使わないで、当社と顧客スペイン現地工場との直取引となります。尚、当社では過去にCIF条件やFOB条件では輸送したことがありますが、DDP条件で輸入するのは初めてです。この場合当社はどのように対応したら宜しいでしょうか。また、自社のフランス工場(現地法人)を通す取引と通さない取引とどちらが良いのでしょうか。

解説:貴社のように、非EU企業である日本企業が欧州域内にてDDP条件で輸出を行うということは、輸入時の付加価値税を自社が払うことになります。輸入は課税要件の一つであり、多くの加盟国では輸入それ自体でVAT登録の必要が発生します。本件では、貴社は輸入時の付加価値税を支払うスペインにおいて付加価値税登録を行う義務があります。加えて、加盟国内の物品供給においても買主に対して付加価値税を課税しなければなりません。

なお、自社のフランス工場を通す取引の場合には、移転価格税制の問題が発生します。反面、本社との直接取引の場合には、付加価値税を初めとした間接税の対応が必要となります。ただし、顧客より要請があって現地にて在庫を保有し、タイムリーに物品提供出来るのであれば、それはそれでコマーシャル上の価値は高いと思われます。よって現地法人を通す取引と、本社との直接取引とで、綿密な比較を行うのが宜しいでしょう。

参考URL ジェトロ http://www.jetro.go.jp/world/europe/eu/qa/01/04O-110801

 

課税地

課税地

欧州付加価値税法では、課税地の判断は非常に重要なポイントです。「課税地」とは、付加価値税が課税される国(加盟国)のことです。

日本の消費税法では、内外判定、つまり、国内(日本)で消費税が掛るのか、掛からないのかと2通りの判定しかありません。しかしこの点、欧州付加価値税法の課税地は、加盟国の数である27通り、及び日本企業の所在地である日本も含めると28通りの選択肢があります。このため、課税地の判断は2通りの消費税と比べて数倍複雑であると言えます。課税地の判断を誤ると、たとえ自社として法令順守を意識した取組を行ったつもりでも、それらの取組を根底から無効化してしまいます。

例として挙げると、本来貴社がイタリアの付加価値税を課税しなければならない場合で、間違ってドイツの付加価値税を顧客に課税して、この付加価値税をドイツの税務署に納付したとします。たとえこの場合でも、イタリアの税務署は貴社に対して付加価値税の納付を求めてくるばかりか、納付の遅延による様々な罰金が科せられます。貴社がドイツの税務署に対して付加価値税を納付したことは一切考慮されません。
このように課税地の判断は非常に重要となります。課税地は資産の譲渡や役務の提供等、その取組内容毎に異なります。

また、国際間接税の専門家であっても解釈が異なることがあり、国際間接税の専門家でない方が簡単に判断できるものでありません。課税地判断として下記は基礎事項を記載していますが、ケース毎に異なる判断が必要とされます。

下記はあくまでも基本であり参考情報として頂きたく存じます。実際の取引の際に仮に付加価値税番号が必要だと後から判明すると、付加価値税番号の取得だけで半年ほど掛かる場合もあることから、実際の取引の数ヶ月から1年ほど前から本来の「あるべき課税の姿」を国際間接税ファームと協議し回答を得ておくことを強くお薦めします。

 

① 資産の譲渡の場合の課税地

資産の譲渡の課税地は、資産の移動が無い場合、「資産の譲渡が行われた場所」となります。また、資産の移動があった場合は、「資産の移動が開始された場所」となります。

【事例】

質問:当社(A社)は東京を本社とするテレビディスプレイ製造業です。今般、顧客企業である日本法人B社より欧州でのテレビ製造に関連して、当該日本法人B社の子会社であるスロバキア企業C社へのディスプレイ納入を依頼されました。当社では同様にスロバキアに現地法人である製造工場D社があるため、ディスプレイに関してはD社からC社へと直送する予定です。売買契約については当社(A社)とB社との間で締結します。実は既に契約も締結しており、前受金を請求する予定です。当社のケースにおいて、当社は欧州の付加価値税について考える必要はありますか。

解説:

本ケースでは、物品がD社からC社へとスロバキア国内にて販売します。このように、物品が欧州域内で最初から最後まで動く販売の場合で、非居住企業である日本企業が間のフローに入る場合においても、これら全ての取引の課税地はスロバキアとなります。結果、A社及びB社(どちらも日本企業)は、スロバキアにて付加価値税番号登録を行い、スロバキアにて付加価値税を申告し、税を納付する義務があります。

 

②役務の提供の場合の課税地

役務の提供の課税地は、事業者間での役務提供の場合は、受益者が事業を営む国が課税地となります。最終消費者に対する役務提供の場合は、役務の提供者が事業を営む国が課税地となります。

【事例】
質問:フランス弁護士Aがイタリアの会社Bとドイツの個人Cに対して法務コンサルティングサービスを行った。この場合の課税地はどの国か。

解説:事業者間での役務提供は、受益者が事業を営む国が課税地となるので、課税地はイタリアとなります。このため、フランス弁護士Aからイタリア法人Bの役務提供の課税地はイタリアとなります。

その一方で、当該取引はリバースチャージの適用対象となるため、実際上はインボイスにはVATは課税されません。代わりにイタリア法人側で当該取引に掛かるVATをリバースチャージとしてイタリア税務当局に支払います。

また、ドイツの個人Cに対するサービスの場合の課税地はフランスとなります。この場合には、フランスの付加価値税が課税されます。但し課税地に関するルールは頻繁に変わりますので、最新の情報を必要な方は是非お問い合わせくださいませ。

 

③域内取得の場合の課税地

域内取引とは、欧州連合のある加盟国から別の加盟国への物品の販売や移送となります。また、域内取得は域内取引のうち、受領する側となります。例えば、ドイツ企業からフランス企業が物品を購入した場合、域内取得とはフランス企業側の取引を指します。ドイツ企業側から見ると、域内供給となります。

なお、域内取得の課税地は、輸送の終了時に資産が所在する国となります。すなわち上記事例では、フランスとなります。

 

④輸入の場合の課税地

輸入の課税地は資産がEU域内に持ち込まれた時点で所在する国となります。例外として、資産が保税手続きに置かれる場合には、保税手続きが終了した時点で資産が所在する国がその課税地となります。

尚、輸入に関する定義は欧州付加価値税法と関税法とで異なるため、注意が必要です

 

 

非課税取引

Medical team at the hospital looking very happy

非課税取引とは、「付加価値税が課税されない取引」となります。非課税取引には大別して2種類に分類することができます。それは「前段階税額控除が認められる非課税取引」と「前段階税額控除が認められない非課税取引」となります。

 

① 前段階税額控除が認められる非課税取引

前段階税額控除が認められる非課税取引のことを、別名「免税取引」といいます。輸出や域内供給がこれに該当します。

【事例】
質問:ポルトガルのアパレル会社P社は中国のアパレル企業C社に対してカジュアルウェア1万着を1,000,000Euro分輸出した。P社は当該ウェア1万着をポルトガル国内のQ社より1万着500,000Euro(税込615,000Euro)で購入した。この場合、P社は仕入に掛かった付加価値税である115,000Euroを控除することが可能か。

解説:
P
社はポルトガル国内で物品を仕入れて、その後EU圏外に当該物品を輸出しました。輸出は非課税取引(免税取引)であるため、P社は前段階税額控除が認められます。このため、P社はウェアの購入代金に掛った前段階の付加価値税額115,000Euroを控除することが出来ます。

 

② 前段階税額控除が認められない非課税取引

前段階税額控除が認められない非課税取引は大別すると、公共の利益に関するものと金融取引、不動産取引に関するものがあります。

  1. 公共の利益に関するもの
    (ア) 公共郵便
    (
    ) 医療行為
    (
    ) 福祉施設での役務の提供
    (
    ) 授業料
    (
    ) 宗教団体による活動、など
    2. 金融取引、不動産取引
    (ア) 保険
    (
    ) 金銭貸付
    (
    ) 土地の譲渡
    (
    ) 土地の賃貸、など

 これらの課税対象取引を行う事業者は、例え仕入時にVATが課税されていたとしても、前段階税額控除を受けることができません。

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付加価値税番号登録・付加価値税申告

 

① 付加価値税登録

「付加価値税登録」とは、付加価値税の番号を登録することです。(同様に「VAT登録」「付加価値税番号の取得」「VATナンバーの取得」との表現もあります。)欧州連合域内で課税対象取引を行った場合、日本企業であろうとも欧州での付加価値税番号を取得する義務があります。

Every taxable person shall state when his activity as a taxable person commences, changes or ceases. (全ての事業者は事業者としての活動の開始時、変更時、終了時に、届け出なければならない。)


付加価値税番号を取得すべき加盟国は、その経済活動の課税地となります。よって、ある加盟国において付加価値税番号を取得していたとしても、別の加盟国で課税対象取引を行った場合、別の加盟国でも付加価値税番号を取得する必要があります。

*参考:付加価値税番号登録サービス
*参考:タックスアドバイザリーサービス

付加価値税登録に必要な書類

付加価値税登録に必要な書類は加盟国により異なりますが、おおよその加盟国で同様の書類が求められる傾向にあります。実際に付加価値税登録を行う場合にはより詳細を確認する必要がありますが、ご参考までによく聞かれる必要書類を記します。

  • 居住者証明書
  • 委任状
  • 商業登記簿謄本(現地語訳)
  • 会社定款(現地語訳)
  • 銀行保証
  • カタログ
  • 事業計画
  • 契約書
  • 輸送条件
  • パスポートコピー
  • 銀行通帳コピー

上記はあくまでもサンプルであり、加盟国により必要書類は異なります。詳細は当社含め、国際間接税コンサルティング会社にお問い合わせくださいませ。(ご参考)居住者証明書のサンプルは当社でもご提供しています。サンプルが必要な方は仰って下さい。

 

② 付加価値税申告

 「付加価値税申告」とは、付加価値税番号を取得後、該当する加盟国の税務署に付加価値税の税額を申告することです。別の言い方では「税務申告」「VAT申告」「VATコンプライアンス」等と呼ばれます。
前述の通り、欧州付加価値税の制度では前段階控除という制度が用いられており、「仕入に掛かった税」と「売上の際に徴収した税」を相殺します。売上の際に徴収した税が多い場合、該当する加盟国の税務署に税を納付します。この時に、付加価値税申告書類によって、納付する税額を申告する必要があります。

反対に、仕入に掛かった税(支払った税)が多い場合、該当する加盟国の税務署に還付申請することにより、還付を目指します。これらの申告のことを付加価値税申告と言います。
尚、付加価値税申告の期間は、加盟国によっても異なりますし、課税対象となる経済活動の金額によっても異なります。概ね1ヵ月毎か3ヶ月毎の申告となります。また、加盟国によっては年次申告も追加で行う加盟国もございます。

*参考:当社付加価値税申告サービス

 

③ インボイスの発行

貴社が欧州連合内で課税対象取引を行う場合、インボイスを発行します。その際、欧州付加価値税法では、インボイス(請求書)は現金と同様の重要性を持つため、注意が必要です。

インボイスには、記載すべき事項を全て記す必要があります。記載すべき事項を記載せず、税務当局が発行されたインボイスが正式なインボイスと認めらない場合、これらのインボイスを受領した会社では、前段階の付加価値税控除が認められないという大きな問題を抱えてしまいます。よって、インボイス上に記載すべき事項は必ず事前に調査しておく必要があります。

また、インボイスを修正する場合、最初に発行したインボイスが無効となることを明らかにしない限り、全てのインボイスに表示されたVATの納付義務が発生します。このように欧州付加価値税法では、インボイス等の取扱いが非常に大きな意味を持ちます。

【インボイスに記載すべき事項】としては下記の項目があります。


(
) 請求書を発行した年月日
(
) 請求書を特定するための番号
(
) 売主の付加価値税番号(VATナンバー)
(
) (域内取得の場合)顧客の付加価値税番号
(
) 売主及び買主の社名及び住所
(
) 販売する資産の名称、数量、金額、または役務提供の場合役務提供の範囲
(
) 資産の譲渡または役務の提供の日付(請求書の発行日と同日で無い場合)
または、前受け金を受領した日
(
) 適用税率、非課税売上及び課税売上の区分、課税標準、単価、値引き額
(
) 付加価値税額
(
) 非課税取引やリバースチャージの場合、その根拠条文の引用
(
) 税務代理人がいる場合は、税務代理人の社名、住所、付加価値税番号
(
) その他Terms of Deliveryの記載


その他、インボイスに記載すべき事項は加盟国によってさらに追加しなければならない項目があります。また、通貨が現地通貨でない場合には、現地税務当局が指定する為替レート算出方法を利用し、現地通貨を併記する必要がある場合が多いです。

【事例】

質問:当社では日本からベルギーに物品を輸送し、ベルギーの物流会社倉庫にて在庫を保管しています。当社がお付き合いしている物流会社A社はベルギーの倉庫会社B社に在庫保管業務を委託しているとのことです。A社からはベルギー国内での倉庫保管料に加え、倉庫保管料に掛かるVATが課税された請求書を日本語で受領しました。A社もこの倉庫保管料に掛かるVATはB社からチャージされたとのことで、当社にチャージしてきました。このVATは還付できるでしょうか。

解説:リチャージされたVATや、日本語で書かれたインボイス等ではVAT還付申請を行うことができません。VAT還付申請を行うためには、まずはインボイスの形式が欧州付加価値税法に則ったものである必要があり、且つ正しくVATが課税されていることが条件となります。日本国内では多くの物流会社が現地で掛かったVAT(現地の役務に掛かるVATの他、輸入VAT等)を請求書上で請求してきます。但しこのようにリチャージされたVATは還付することができないため注意が必要です。

 

その他の登録

 

EORI登録

EORI登録」とは、付加価値税法でいうVAT番号同様の関税法上の事業者番号です。EORI番号(Economic Operators Registration and Identification Number)はEUでの通関手続きを実施するために必要な番号であり、輸入名義人や荷受人、通関代理人になる場合に必要な番号です。
輸入VAT還付の際には必須の番号となります。

また、VAT番号と異なり、加盟国毎に番号があるわけではなく、欧州連合内で自社に配布された1つの番号を利用します。また、VAT登録後は、毎月または毎四半期にVAT申告をしなければならないのに対して、EORI番号は番号取得後は特段何かを申告する必要はありません。あくまで輸出入時のみに使う番号です。

(参考情報)EORIサービス

 

その他の申告

 

イントラスタット申告

「イントラスタット申告」とは、EU域内の統計局で貿易統計を取る目的の定期的な統計申告です。

イントラスタット申告の対象取引は、加盟国間のクロスボーダーでの物品や役務の提供となり、加盟国毎に当該イントラスタット申告を行う必要があります。報告内容としては、出荷日や着荷日の他、単価等の情報です。

(参考情報)イントラスタット申告サービス

 

ECセールスリスト申告 (recapitulative statements/EC Sales Listing)

ECセールスリスト申告」とは、域内供給や域内移送等のように国境を跨るクロスボーダー取引の際の申告となります。申告頻度は月次申告となります。

ECセールスリスト申告の他に、ECパーチャスリスト申告という申告も同様にあります。

(参考情報)ECセールスリスト申告サービス

新規CTA

付加価値税還付

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付加価値税還付は、日本企業にとって欧州付加価値税制度の中で、もっともよく知られた制度です。別名、「VAT還付」「VATリファンド」とも言います。 EUで課税活動を行っていない日本法人が、その事業を行う上で支出した欧州付加価値税は、付加価値税還付申請によって、支払った付加価値税を各加盟国の税 務署から還付することが出来ます。これが非居住者に対する付加価値税還付制度です。

(参考情報)VAT還付サービス

 

付加価値税還付の還付対象経費


適用される品目の例としては、出張時のホテル代、タクシー代、レンタカー代、レストラン代等の他、駐在員事務所の経費など様々な経費が該当します。非居住者に対する付加価値税還付では、その対象が「欧州で課税対象取引を行っていない欧州以外の法人」が対象となります。(欧州で課税対象取引を行っている日本企業は、付加価値税申告上の付加価値税還付を利用する必要があります)。

  • ホテル代
  • レストラン代
  • タクシー代
  • バス代
  • レンタカー代
  • 入場料
  • 業務委託費
  • 輸入VAT
  • 物品購入代 等

 

付加価値税還付申請デッドライン

非居住企業に対する付加価値税還付については、申請上のデッドラインがあり、毎年630日がデッドラインであり、還付対象期間は前年の11日から1231日までの1年間の経費が対象となります。

 

付加価値税還付申請対象国

加えて、日本企業が非居住企業向けの還付制度を利用する場合、チェコやイタリア、ポーランド、スロバキア、ギリシャ等、一部の欧州連合加盟国では日本企業からのVAT還付を対応しませんので注意が必要です。但しドイツやフランス、スペイン、オランダ、ベルギーの他、イギリスといった日本企業とも関連の強い主要国では概ね対応できます。

 

付加価値税申請に必要な書類

非居住企業に対する付加価値税還付についても加盟国により異なります。付加価値税登録同様、下記に代表的な申請書類を記します。

  • 居住者証明書
  • インボイス(原本)
  • クレジットカードレシート
  • 委任状
  • 質問表

*参考情報:当社付加価値税還付サービス

【事例】輸出入VATの還付
質問:当社は試験用の機械の製造会社です。今般、ドイツ国内にて自社所有物として研究機関に機械設備を設置しました。当該機械設備は研究機関に設置後、試験目的で利用されます。
本件において、当該試験機械の代金がおよそ1億円であったので、関税の他、ドイツでの輸入VATのみで2000万円ほどが掛かりました。輸送には日系の物流会社を利用しました。本件において輸入VATを還付することはできますか。

解説:欧州連合での物品購入に掛かるVATや宿泊費やタクシー代等のいわゆるT&Eコストに掛かるVAT同様、輸入VATも還付可能です。但し輸入VATを還付する場合には、様々な書類を用意する必要があります。中でも輸入申告書は必須となります。輸入VATを還付する場合には、実際に物を移動してからでは遅い場合が多く、事前に国際間接税専門のコンサルティング会社に意見を求めるべきだと考えます。

(参考情報)VAT還付サービス

対象となる企業事例

Smiling charismatic speaker giving public presentation in conference hall



 

越境ECで売上拡大を目指す個人や企業

個人の副業や本業で、日本国内や中国等から物を仕入れて、AmazoneBay始め、海外のマーケットプレイス上や自社サイトで販売する事例が多くあります。前述の通り、FBAなどを利用して販売を行う場合は、FBA倉庫所在国でのVAT番号取得が必要となります。

 

また、直送販売の場合でも、Amazon FranceAmazon Germanyでは付加価値税番号を求めており、付加価値税番号の無いセラーのアカウントを凍結していることは留意してください。

 

現在、非EU企業による電子商取引上での欧州地域への物品販売の際に、多くの非EU企業が現地の付加価値税番号を取得していなかったり、付加価値税を課税していなかったりする場合があります。このような販売に対して、現地企業が課税しているのに対して非EU企業は税務上のコンプライアンス違反であるとして、欧州連合では明確に脱税であるとしています。この結果、セラーのみならず、プラットフォーマーであるAmazoneBayに対しても連帯責任を求めるようになりました。

 

欧州各国の税務当局はAmazon等のサイトにアクセスできる権利を有しており、越境ECで多く脱税が見られている中国人セラー、日本人セラー、ロシア人セラー等は特にその対象として頻繁に取引を確認されています。

 

このように、越境ECに関連する税の無申告は後にアカウント凍結を含めた大きな問題になるため、付加価値税番号が必要な場合、きちんと税登録をしておく必要があります。

 

国別VATデータベース

 

デジタルで売上拡大を目指す企業

アプリやデータベース等、デジタル製品やE-Bookや電子上の音楽を現地の個人等に販売している場合、現地の税申告が必要です。

デジタルグッズ販売の場合には、例え販売対象消費者が複数の加盟国にまたがっていたとしても、一カ国で付加価値税申告をすれば良いだけです。

 

尚、デジタルグッズ販売業者は欧州以外にも、米国であれば売上税の申告義務が発生します。また、それ以外の世界諸国でも税務申告及び納税が義務付けられた国があります。自社製品やサービスのデジタル化の際には、グローバルでのプレゼンス向上があります。

しかし、グローバルに全世界に対してデジタルグッズを販売すると、世界各地での税申告義務が発生するため、注意が必要です。

(参考)デジタルトランスフォーメーションサービス

(参考)売上税登録・申告サービス

 

 

プラットフォーマー

 

Amazon, Ebay等、いわゆるプラットフォーマーに対してもより厳しい税申告の義務があります。以前には、プラットフォーマーを利用して物品販売している非EUのセラーが付加価値税登録や付加価値税申告もしていない場合が多くありました。このことを問題視する欧州連合加盟国は、セラーの付加価値税無申告に対して、Amazon等のプラットフォーマー側に連帯責任を負わせ、Amazon等のプラットフォーマーにより納税させる仕組みとさせました。

 

同様に日本企業においてもプラットフォームサービスを展開し、日本在住セラーが欧州の消費者に対して販売するサービスを展開している企業も多くあります。このような場合、これらのプラットフォーマー企業は現地での付加価値税登録及び申告が必要となります。

 

今までは、売主(セラー)と買主(現地消費者)との取り決めで、プラットフォーマーは「場の提供」だけであると徴税義務を逃れていましたが、今後は、プラットフォーマー自身が課税、徴税、納税しなければならなくなりました。

このため、自社のサービスをグローバルに展開する際には、事前に課税方法を確認する必要があります。

(参考)売上税登録・申告サービス

 

欧州で物品やサービスを提供する企業

欧州域内で物品やサービスを販売したり、また物品販売と共に機械を据え付けたりしている場合は、現地での課税対象取引となります。例えば製造業や商社でよくあるケースでは、欧州のサプライヤーから自社が間に入り、その後欧州内で別の企業や個人に物品を販売するケースです。またこのケースの発展として、自社は日本企業との売買であるものの、物の移動は自社の提携企業からクライアントの現地工場という場合もあります。いずれの場合でも欧州域内での課税対象取引であり、付加価値税登録の必要があるのが一般的です。(ケースにより異なるため、詳細は当社税務アドバイザリーサービスをご利用くださいませ。)

(参考)売上税登録・申告サービス

 

税コストの最適化を目指す企業

旅行経費や海外サプライヤーからのインボイスに課税されているVATの削減を目指す企業はVAT還付によってVATを最適化できます。

 

(参考)VAT還付サービス

最後に

_AAA3435昨今、企業の経済活動はデジタル化がより一層進んできています。これらデジタル化については、デジタルトランスフォーメーション(DX)と表現されることも多く、様々な分野でこれらのデジタル化は進んできています。物品販売の分野では百貨店や専門店といった従来型の物理的な店舗から、AmazoneBay, 楽天に代表されるような仮想店舗上での売買(E-Commerce)と変化しています。また、ソフトウェアの分野でも、従来型のパソコンにインストールするソフトから、月額課金のクラウドモデル(SaaSサービス)へと変化しています。加えて、製造業の分野でも、従来型の機械の一括販売型から、IoTを駆使した管理システムや保守管理システム等のサービス提供と絡めたソリューション販売へと変化しています。

これらのケースの根幹となっている技術が、通信速度の向上であり、IT技術の進歩です。また、供給者側も顧客側も、既存の世界観とは異なる最新の利用体験を求めるようになりました。この背景として、グローバルな企業競争上の、グローバルなサービス競争があります。欧米を中心として、これらデジタル化、SaaS化、API経済化の波は日本企業にも否応なく襲いかかります。

グローバルな経済活動は、メリットとしては、新しい市場の開拓と売上の増大をもたらします。反面、デメリットとして、各地域における様々な法制度・税制度を理解し、活用していくことがより重要になってきています。なかでも、直接税から間接税への世界的な税収シフトの傾向、そして各国の課税権の強化といった理由から、グローバルな経済活動を行う日本企業にとって、これらの国際税制度への理解は重要になります。

当ガイドブックでは欧州付加価値税を中心に論を進めていますが、欧州付加価値税は全世界の付加価値税制度の中で最も進んだ制度であり、国際間接税の基礎的な知識を知る上で重要な考え方となります。当ガイドブックによって、国際間接に関する皆様の意識を高め、日系企業のデジタル化によるグローバルでの経済活動拡大戦略の一助になれば幸いです。

 

Fuchigami

淵上 暁

オプティ株式会社 代表取締役

企業のデジタル化及びグローバル化を支援。当ガイドブックを執筆。

University of Texas留学後、大手半導体会社、欧州系税務戦略コンサル勤務、2010年に同僚と共にスピンアウトし、2010年11月11日オプティ株式会社を設立。経済産業省、独立行政法人 日本貿易振興会(JETRO)等での欧州付加価値税に関するコンサルティングや税務記事執筆等の業務を受託。

・取材実績: 株式会社ダイヤモンド社、テレビ東京・ワールドビジネスサテライトなど。
・セミナー実績: フランス大使館、関西経済連合会、六本木アカデミーヒルズ、東洋経済セミナー等多数。

 

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Q, オプティではUAEや米国・カナダなどのVAT登録やVAT申告も可能ですか

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はじめに

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山崎 卓馬

オプティ株式会社 共同代表取締役/創業者

995年オリックス株式会社入社、海外事業部門で事業開発と事業投資に従事。2006年よりシンガポールの投資子会社であるORIX Investment and Managementに出向、同社にて社長を務める。その後、本社の海外事業投資部、戦略投資部、海外事業開発部などでManaging Director等を歴任。

シンガポール上場企業と合弁でベトナムとシンガポールにおいての投資実行、スリランカ上場企業の取締役としてマイクロファイナンスの事業開発、カンボジア最大手の商業銀行出資、インドネシア独立系2位のファイナンス企業のM&Aなどを実行。投資実行後も出資先と共にベトナム・カンボジア・ミャンマーでの新規事業開発や、インドネシア買収先でのPMI(Post Merger Integration)、タイ・マレーシアでの投資戦略立案などを、チームメンバーと共にハンズオンで推進。

事業会社におけるクロスボーダーでの投資やPMIでの経験を活用し、日系企業の海外事業展開をハンズオンで支援したいという思いと、オリックスで共に働いた淵上の「世界の税をクラウドで簡単にする」という思いと、TaxTechとしてのオプティの方向性に成長性を感じ、当社に共同出資して経営に参画。
関西学院大学卒。当ガイドブックを監修。

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