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Merchant of Record(マーチャントオブレコード)とは?

Merchant of Recordとは?

Merchant of Record(MoR)とは

越境ECの税務コンプライアンスにおいて急速に注目を集める「MoR」モデル。その仕組みと可能性、見落とされがちなグレーゾーン、そして自社グループでの独自MoR構築という選択肢を整理します。

Merchant of Record(MoR)とは、エンドカスタマーとの取引において「法的な売主」として登録される事業体のことです。単なる決済代行とは異なり、MoRは販売に伴うすべての法的・財務的責任を引き受けます。具体的には、消費者への請求・入金、返金・チャージバック対応、そして最も重要な点として、各国の間接税(VAT、GST、消費税、米国Sales Tax等)の計算・申告・納付がMoRの責務となります。

端的に言えば、MoRは「あなたに代わって売主になる」モデルです。実際の商品・サービスの提供者はMoRとB2B取引を行い、MoRがコンシューマーに対する税務上の売主として振る舞います。越境ECにおいては、この構造が多国間の税務コンプライアンスを劇的に単純化します。

デジタルとフィジカル — 二つのMoRカテゴリ

MoRのユースケースは大きく「デジタル商品・サービス」と「物理的商品(Physical Goods)」の二領域に分かれます。それぞれ対応するプラットフォームの特性も大きく異なります。

Digital

デジタル商品・SaaS・ゲーム

  • Paddle
  • FastSpring
  • Lemon Squeezy
  • 2Checkout (Verifone)

ソフトウェア販売・SaaS・デジタルダウンロードを主軸とします。EU VATのOSS対応、米国Sales Tax自動計算機能が充実しており、日本発のソフトウェア企業やゲーム会社のグローバル展開に広く活用されています。

Physical

越境ECフィジカル商品

  • Global-e
  • Zonos
  • Flow Commerce
  • ESW (eShopWorld)

物理的商品の越境販売において輸入者(IOR)兼MoRとして機能します。関税計算・DDP配送・現地VAT申告までを一体提供しており、ファッション・コスメ・電子機器分野で普及しています。

MoRの仕組み — 資金と税務の流れ

MoRモデルにおける取引構造は、一般的に以下のような二段階の構造をとります。

エンドカスタマー 購入・課税済み請求→MoR (B2B売)→実際業者(貴社)
 

エンドカスタマーはMoRから購入し、MoRがVATや消費税を含む適正価格で請求・徴収します。MoRは収集した間接税を各国税務当局に申告・納付します。実際の事業者はMoRとの間でB2B取引(一般的には税抜き)を行い、収益を受け取ります。この構造により、実際の事業者は個別の税務登録・申告業務から解放されるという大きなメリットが生まれます。

MoRモデルの限界とグレーゾーン

しかし、MoRモデルを万能の解決策として位置づけるのは早計です。現実には、多くの重要な制約と法的不確実性が存在します。

実務上の制約と法的グレーゾーン

  • 01マーケットプレイスとの競合・排他 — AmazonやRakutenなどの主要マーケットプレイスは自社がMoRとして機能するため、そこに出品する場合は第三者MoRの利用が原則不可となります。Paddleなどのプラットフォームは独立したドメインや自社サイトでの販売を前提としており、マーケットプレイス販売とMoRの組み合わせは通常設計できません。
  • 02B2B取引への非適合性 — MoRモデルはB2C(消費者向け)取引を前提に設計されています。B2B取引においては、購入企業が仕入税額控除を求めるため「正しい売主名で発行されたVAT Invoice」が必要となります。MoRが売主として発行した請求書では実際の取引当事者との齟齬が生じ、買い手企業の税額控除が認められないリスクがあります。
  • 03みなし売主(Deemed Supplier)認定リスク — 特に欧州においては、プラットフォームやMoRが「deemed supplier(みなし供給者)」として認定される法的根拠が強化されています(EU ViDA改正等)。実態と法形式の乖離が大きい場合、税務当局が実際の事業者を本来の納税義務者として再認定するリスクがあります。
  • 04返金・クレジットノートの会計処理 — MoRが収集・納付した税額と実際の返金処理の間に時間差・金額差が生じた場合、どちらの事業体がどの税務当局に対してクレジットノートを発行し還付を請求するかが複雑化します。特に複数税率が混在する取引では調整が困難になります。
  • 05カスタマイズ限界とデータ主権 — MoRプラットフォームは標準化された税務ロジックを提供しますが、業種特有の複合税率・非課税品目・軽減税率の適用についてカスタマイズが困難なことが多いです。また取引データがMoRのシステムに集約されるため、データの主権・監査対応の観点でリスクが生じえます。

GDPRリスク — 見落とされがちな最大のエクスポージャー

MoRを利用する際に見逃されがちなリスクとして、GDPR(EU一般データ保護規則)への対応があります。MoRプラットフォームはエンドカスタマーの個人データ(氏名・住所・決済情報・購買履歴等)を大量に処理・保持します。実際の事業者がMoRを通じてEU域内の消費者に販売する場合、そのデータ処理の法的責任の所在が曖昧になりやすいのが実情です。

GDPR ペナルティの上限

重大違反(Tier 2)

4%

全世界年間売上の最大4%、または2,000万ユーロのいずれか高い方。基本原則・同意・データ主体の権利に関わる違反が対象(Art. 83(5))。

軽微違反(Tier 1)

2%

全世界年間売上の最大2%、または1,000万ユーロのいずれか高い方。技術的・管理的義務に関わる違反が対象(Art. 83(4))。

重要なのは「全世界売上」を基準とする点です。2025年の欧州司法裁判所(CJEU)判決(ILVA A/S事件)では、グループ企業全体の売上を基準とすることが確認されました。Metaへの12億ユーロ超、Amazonへの7.46億ユーロなど、大手企業での巨額制裁事例が相次いでいます。第三者MoRへの個人データ移転・処理委託における責任分担を明確に設計しなければ、この罰則が自社に及ぶリスクがあります。

データ主権の観点から見ると、自社グループ内で独自MoRを構築・組成することが、GDPRリスクを含む複合的なリスクを最小化する一つの有力な選択肢です。自社グループ内であれば、データの保管場所・処理フロー・アクセス権限を完全にコントロールでき、監査対応も容易になります。

OPTIのMoRリスク分析・組成コンサルティング

Merchant of Record 組成・リスク分析サービス

opti.co.jp/enterprise/mor_risk_analysis ↗
 

OPTIは国内外の主要MoRプラットフォーム(Paddle、FastSpring、Global-e、Zonosなど)や税務エンジン(Vertex、Avalara、Sovos、Thomson Reuters、Kintsugi等)との実務経験を通じて、各サービスの強みと弱みを深く理解しています。単なる比較情報の提供にとどまらず、クライアントの事業モデルに即したスキーム設計・リスク評価・組成支援を一貫して提供することができます。

Global Network

170カ国以上の対応実績

欧州・英国・アジア・米国など世界170カ国以上のVAT・売上税登録に対応。各国税制に精通した現地提携先ネットワーク(Andersen Global)を活用しています。

Tax × Legal

間接税だけでなく法制度も

移転価格・資金決済法・消費者保護法・GDPRなど、税務と法務の両面からリスクを分析します。デジタルと物品とで論点を整理することが可能です。

Composition

自社MoR組成の実績

国内外でのMoR組成・スキーム設計の実績に基づき、自社グループ独自MoRの立ち上げを支援します。税申告・法務対応まで一貫してカバーします。

CXO Support

経営層への報告支援

将来の問題発生リスク分析・インパクト分析を実施し、CXOへの事業報告・意思決定に必要な資料作成を支援します。

  • スキーム確認・リスク査定
  • MoR導入時の論点整理
  • MoR・税務エンジンの選定コンサルティング
  • 自社MoR組成支援
  • MoRの継続的モニタリング
  • 自社販売 vs MoR販売のプロコン分析
サービス詳細・お問い合わせ ↗資料請求はこちら ↗

日本企業における実務上の論点

日本を拠点とする事業者がMoRモデルを採用する場合、国内消費税法(特に「国境を越えた役務の提供」に関する平成27年改正以降の電気通信利用役務)との関係にも注意が必要です。MoRが日本消費税上の「役務の提供者」として認定されるか否かにより、インボイス制度との整合性や仕入税額控除の取り扱いが変わりえます。

また、フィジカル商品のMoRであるGlobal-eやZonosが輸入者(IOR)として機能する場合、関税法上の輸入申告者の問題、ACP(税関事務管理人)制度との関係、そして輸入消費税の仕入税額控除の帰属が複雑な論点を形成します。

まとめ — 「便利なツール」としてのMoRと、その先にある独自構築という選択肢

Merchant of Recordモデルは、特にデジタル商品・SaaSの越境販売においては、税務コンプライアンスの負担を大幅に軽減する有力な手段です。一方で、マーケットプレイスとの排他性・B2B非適合性・GDPRリスク(最大で全世界売上の4%)など、第三者MoR利用には構造的な限界があります。これらのリスクを深く理解した上で、自社グループでの独自MoR構築も含めた包括的な設計が求められます。OPTIは世界各地のMoRプラットフォームや税務エンジンを熟知した立場から、リスク分析・スキーム組成・継続的モニタリングを一貫して支援しています。