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再包装の責任:米国と欧州のEPR包装法で企業が知っておくべきこと

はじめに:包装廃棄物の時代、企業責任が問われる 包装廃棄物の処理は、もはや自治体の問題にとどまりません。 世界中で進む「拡大生産者責任(EPR:Extended Producer Responsibility)」の導入によって、企業は自ら市場に投入する包装について説明責任と費用負担を求められるようになっています。 米国では州単位で包装EPR法が広がり、欧州連合(EU)ではEPRを法制度の中心に据えた統一的な規制が2026年から本格的に始動します。 企業がこの潮流を理解し、早期に対応することは、単なるコンプライアンス対応ではなく、ブランド価値・コスト競争力・サステナビリティ評価を高めるための経営戦略でもあります。

 

第1章:米国におけるEPR包装制度の現状と展望

各州で広がるEPR包装法の導入

米国では、EPRは新しい概念ではありません。電気製品や医薬品などの分野では20年以上前から導入されています。
しかし、ここ数年で特に「包装」に焦点を当てたEPR制度が急速に広がり、カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州をはじめ7州で施行済み。さらに、イリノイ州やロードアイランド州でも法案審議が進行中です。

これにより、企業は州ごとに異なる登録・報告・料金制度を理解し、対応する必要があります。
違反すれば高額な罰金や販売停止のリスクも生じます。

生産者責任組織(PRO)制度と報告義務

EPR法が施行されると、各州は「生産者責任組織(PRO)」を指定します。
ブランドオーナーやメーカーはこのPROに登録し、以下のデータを毎年提出します:

  • 包装の重量と素材の種類

  • リサイクル含有率と再生材使用率

  • ブランド名・販売数量

  • リサイクル可能性・包装設計情報

PROはこの情報をもとに**EPR料金(コンプライアンスフィー)**を算定し、各企業が拠出します。

EPR対応を競争優位性に変える4ステップ戦略

  1. 範囲を決定:対象包装・対象州を明確化。

  2. 評価と設計:包装素材、重量、リサイクル性を分析。

  3. 実装:データ報告・登録体制を構築。

  4. 改良と運用化:継続的改善によってコスト最適化と環境性能向上を実現。

これらを早期に行う企業ほど、設計コスト削減・市場シェア拡大・ブランド価値向上の恩恵を受けやすくなります。


第2章:欧州におけるEPR包装制度の進化と統一化

EUのEPRの起点:包装及び包装廃棄物指令(PPWD)

欧州では、EPRはすでに長い歴史を持ちます。
その基盤となっているのが、**包装及び包装廃棄物指令(Packaging and Packaging Waste Directive:94/62/EC)**です。
この指令に基づき、EU加盟各国は独自のEPR制度を国内法化し、包装リサイクル義務を課してきました。

たとえば:

  • ドイツ:VerpackG法により「LUCID」登録が必須。未登録事業者は販売禁止。

  • フランス:家庭用包装だけでなく業務用包装にも義務拡大。TRIMANマーク表示を義務化。

  • イタリア:全国コンソーシアム「CONAI」が素材別にリサイクルを管理。

  • オランダ:包装量50,000kg以下の事業者に簡略化措置あり。

  • スウェーデン:ボトル・缶などに返却制度を導入。

このように、欧州各国は共通理念の下で独自スキームを展開してきました。


2026年施行予定の新制度:Packaging & Packaging Waste Regulation(PPWR)

2025年に発効し、2026年8月から本格施行予定の**PPWR(包装及び包装廃棄物規則)**は、EPRの統一化を大きく進める転換点です。

主な変更点は以下の通りです:

  1. データ報告フォーマットの統一化
     各国ごとに異なっていた報告様式を統一(XML/JSONスキーマ)。

  2. オーソライズド・レプレゼンタティブ制度(AR)
     EU域外企業は、販売国ごとに代理人を指名し登録・報告を代行。

  3. オンラインプラットフォームの責任強化
     マーケットプレイス事業者もEPR適合確認義務を負う。

  4. 請求書記載義務
     EPR登録番号をインボイスに記載し、取引の透明性を確保。

  5. 報告・登録期限の統一
     加盟国間でのスケジュールや形式が整備され、報告負担の軽減が図られます。

これにより、欧州域内で事業を行う企業は、単一基準のEPR準拠体制を構築できるようになりますが、同時に監視の厳格化も進みます。


第3章:米国と欧州のEPR包装制度の比較と戦略的示唆

項目 米国 欧州(EU)
制度形態 州別導入、断片化 EU指令・規則に基づく統一方向
管理主体 州政府+PRO 各国当局+EU規則+PRO
義務者範囲 ブランドオーナー・メーカー 生産者・輸入業者・越境EC事業者
報告単位 州別フォーマット EU共通スキーマ導入予定
執行レベル 州法により異なる EU域内統一的適用を目指す
制裁措置 州ごとに罰金・販売停止 登録欠如時の流通禁止・罰金・取引停止

米国企業は「多様な州制度を管理する対応力」が求められ、欧州企業は「統一化される制度への早期移行」が求められます。

両地域に共通するのは、データの正確性・追跡性・包装設計の改善が企業競争力の鍵になる点です。


第4章:企業が今すぐ取り組むべきEPR対応アクション

① 対象包装の特定と影響範囲の把握

  • SKUごとに包装構成・材質・重量を把握。

  • EUでは、販売国ごとのEPR対象を明確に。越境EC企業は代理人(AR)選定を検討。

② 包装設計の再評価

  • リサイクル性向上、軽量化、単一素材化を推進。

  • 再生材(PCR)使用率の増加を検討し、エコモジュレーションによる料金削減を狙う。

③ データとシステムの整備

  • SKUレベルで包装データを自動収集・更新するシステム構築。

  • EU・米国両方に対応できる報告データ標準化を進める。

④ コンプライアンス・ガバナンス体制の確立

  • PRO登録・報告スケジュールの管理。

  • EPR番号の請求書反映。

  • 社内外ステークホルダー(物流、販売代理店、マーケットプレイス)との契約明確化。

⑤ 継続的改善とステークホルダー開示

  • Scope3排出量削減・マイクロプラスチック対策・有害物質除去を並行して実施。

  • CSRDなど他のサステナビリティ報告制度との整合性を確保。


第5章:EPRを「コスト」から「競争力」へ

EPR包装法は、規制であると同時に市場変化のチャンスでもあります。
包装設計を再構築することで、次のような成果が期待できます。

  • 材料コストの削減と物流効率の向上

  • ブランドのESG評価および消費者好感度の向上

  • 持続可能な製品に対する価格プレミアム(+20〜25%)の実現

  • 投資家・取引先への信頼性向上

環境対応を求める消費者が増える中、包装の再設計こそがブランドを差別化する時代です。
EPRを「法令遵守」ではなく「サステナブル経営の柱」として捉えることで、企業は一歩先の市場競争力を得ることができます。


まとめ:未来志向のEPR戦略を今から始めよう

EPR包装法の拡大は、企業に新たな責任を課すと同時に、変革の契機を与えます。
規制対応を後回しにするほど、将来的な修正コストと罰則リスクは増大します。

今こそ、

  • 包装データの整備、

  • 設計見直し、

  • PRO・ARとの協働、

  • グローバル対応体制の構築

を進める時期です。

規制対応を戦略的価値創造の手段に変えることで、企業は「環境と成長の両立」を現実のものにできます。


出典

  • 欧州委員会 “Packaging and Packaging Waste Directive 94/62/EC”

  • VAT Compliance Blog (2024) “5 Major EU EPR Packaging Changes from 2026”

  • Deutsche Recycling Blog (2024) “Comparing EPR Regulations in Europe”

  • EUROPEN “Overview of Member States’ EPR Schemes”

  • FT.com (2024) “EU to tighten packaging rules under PPWR reforms”